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意見陳述(法的問題)

  • nara-justice
  • 2018年4月4日
  • 読了時間: 6分

意 見 陳 述


平成30年4月4日

奈良市監査委員 各位

監査請求人ら代理人  

弁護士  石川 量堂  

 以下の裁判例を手がかりに、本件各土地の売買価格が高額に過ぎるのみならず、購入の必要性さえないこと、したがって、本件各土地の売買契約を締結することは違法であり、売買代金が支払われた場合、市長は奈良市に対しに損害賠償責任を負うべきであることを以下で述べる。

 名古屋高等裁判所平成26年6月6日判決(平成25年(ネ)第809号、平成26年(ネ)第26号)(原審:津地方裁判所平成23年(ワ)第409号損害賠償請求事件)(以下、「参考裁判例」と記す。)

 三重県名張市が、平成23年、火葬場の建築目的で購入した土地の売買価格が高額に過ぎるとして市が当時の市長を被告として損害賠償請求の訴えを起こす。

  購入仮契約:平成11年6月21日(一部は同年同月23日)

  議会議決:平成11年6月25日→本契約

  売買代金:6億2777万0761円

  裁判所の判断:適正な価格を超える1億5720万円を損害と認定。

因みに、売買代金額が依拠した第2鑑定は適正とされた第1鑑定の1.39倍。


以下、判決文が指摘する問題点に即して本件の問題点を指摘する。

1 本件の場合

 奈良市が依頼した不動産鑑定の3.14倍~3.4倍の高値で購入しようと

している。

若草不動産鑑定:482円/㎡

大和不動産鑑定:445円/㎡

奈良市 1513円/㎡


2 被告は適正価格の1.5倍までの幅が許されると主張。

(1) 参考裁判例における裁判所の判断

 「本件斎場建設が本件各土地以外では全く不可能であり、適正価格を上回る支出をしてまで原告(=市)が早急にこれを取得しなければならない程の事情があったとまでは認められない」から、適正価格を上回る売買代金の決定が被告の裁量の範囲内ということはできない旨判示。

(2) 本件の場合、3倍での高値で購入しなければならない合理性は全くない。

 鑑定価格の3倍以上の高値で購入しなければならない、特段の事情(例えば本件各土地以外に新斎苑建築が全く不可能な状況があるといった事情)は存在しない。したがって、これほどの高値で購入すべき合理的理由は全くない。


3 土地取得の必要性

(1) 参考裁判例における裁判所の判断

 「本件斎場の建設は原告の長年の懸案事項であり、複数の候補地が検討されたが、地元の同意が得られない、あるいは所有権の帰属が不明確で取得が困難である等の事情により実現できなった経緯があり・・・斎場は・・・いわゆる迷惑施設出あることから地元同意を得にくいところ、U地区は本件牧場地に本件斎場を建築することに同意していたのであり、他に具体的な候補地の存在も窺われないから、・・・本件土地を速やかに取得する必要性は高かった。」と

して、当該土地の購入の必要性は肯定する。

(2) 本件の場合

ア 複数候補地の検討、地元の同意

 奈良市の場合、斎場の建築が長年の懸案事項である点は同様であろう。しかし、奈良市が多数の広大な遊休地を保有しているにもかかわらず、それら1つ1つについて建設が具体的に検討されたことはほとんどない。また、地元ないし近隣住民の中には新斎苑の建築に反対し、その請願が議会に提出されるなど地元住民の多数が賛成しているとは言い難い状況があり、はたして新斎苑の用地が本件各土地でなければならない必然性があるのか疑問がある。

イ 産業廃棄物の問題

 本件新斎苑苑予定地には大量の産業廃棄物が埋まっている。購入しようとしている土地に産業廃棄物が埋まっている場合、当該土地の利用が妨げられる可能性が高いため、産業廃棄物の除去が必要になる。したがって、廃棄物が埋まったままの状態で購入する場合、その撤去費用相当額が適正な売却代金額から控除されるのでなければ、購入する側は土地の購入代金に加え、廃棄物の処理代金まで負担しなければならず、購入する側は多大な経費の負担

増を強いられる。そこまでの負担をしてまで本件各土地を購入しなければならない必要性はない。

ウ 西側隣接地の取得の問題

 また、平成29年11月22日、追加購入する旨が発表された、新斎苑予定地の西側隣接土地に至っては、保安林を含んでいる。保安林は水源の涵養、災害防備等のため、立木の伐採、土地の形質変更が制限されており、そのような土地の積極的な利用のためには保安林の指定を解除しなければならないが、指定の解除は公益上の必要が生じたときなど要件が厳しく、このような土地が何らかの形で利用できるようになるとは考えにくい。実際、これらの土地の具体的な利用計画さえ決まってない。

エ 以上の諸事情にかんがみれば、そもそも新斎苑の用地として本件各

土地を購入すべき必要性はない。


4 市長の故意過失について

(1) 裁判所の判断

平成8年の第1鑑定の後、平成10年に第2鑑定がなされ、売買価格は鑑定額が高い第2鑑定に依拠して決定されている。

 しかし、「平成6年、平成8年と平成11年との比較で一般的に地価が下落を続けていることは公知の事実であった」「したがって、被告としては、単に資格を有する不動産鑑定士による鑑定結果(第2鑑定)を得るのみでなく、その結果について、各鑑定、特に第1鑑定と比較して増額となった理由について、なお十分に検討すべきであった。そうであるにもかかわらず、被告は、前記のとおり、平成11年2月12日ころH鑑定士から口頭で鑑定結果を聞くと、その価格で買収することを決めて、同月中には特別委員会及び全員協議会に用地を買収価格としてH第2鑑定に依拠した6億3000万円を提示し、同年6月21日に所有者らと本件各売買契約にかかる仮契約を締結して手続を進める一方、本件議決に至った会期の最終日になって議事の途中でようやくH第2鑑定の鑑定書を提示したものの、附属書類も添付せず、議決後すぐに回収し、議員らがこれを検討する機会を十分に与えず、買収価格が高額に過ぎると追及されても「専門的な国家資格を持った不動産鑑定士が・・・導いた結論である。」

と形式的な答弁をするなどしていたのである。このような経緯を総合すると、被告には少なくとも本件各売買契約を締結するにつき重大な過失があったものといわなければならない」と判示する。

(2) 本件の場合

本件の場合、専門的な不動産鑑定士の導いた結論を大きく上回る価格での購入がなされようとしている。しかも、そのような高額な価格で購入する根拠も、議会で資料が提供され、議論が尽くされた状況にない。上記のような裁判例の判示に照らせば、市長の重過失は明らかである。

以上


(口頭での補足)

 岩井川ダムの用地買収における買収価格が参考にされ、価格の決定がなされているようですが、これは昭和61年であり本件とは時代が全く異なること、場所も異なること、ダムの買収はこれが特に防災用のダムであることを考えると用地には代替性がなく、緊急性も本件より高く鑑定価格をある程度上回る買収価格の設定もあり得たこと、これに対して本件では用地の代替性がないとか防災のための緊急性といった事情はなく鑑定価格を上回る金額での買収には合理性がないこと、岩井川ダムの用地買収にあたって作成されたと思われる土地価格に関する当時の鑑定書などが残っておらず価格を導き出した根拠ないし課程を見ることができず、その合理性を検証することは不可能であること等の諸事情を考えると岩井川ダムの買収価格を本件の用地買収の根拠ないし参考にすることはできないこと、については口頭で補足しています。

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